タイ、バンコクにて2つの民間病院を視察しました。
1.サミティヴェート病院スクムビット日本人が多く暮らすスクムビットにあり、周辺は日本語の飲食店もたくさん集まっています。この病院は、1979年に開業したDMSグループの私立の病院です。タイでは、医療保険制度はありますが、国立の病院では、医者も薬も少なく、何時間も間待たされることもあるそうです。一方、お金のある方々は自由診療が認められているので、私立の病院で快適でよい治療が受けられるようになっています。 この病院では、医者は病院の雇用ではなく、全員がフリーランスとして働いています。人気のないドクターは淘汰されていき、患者さんがたくさんついているドクターはしっかり稼ぎます。特にオペをやるドクターは収入が多く、中には年に1億円も稼ぐ方もいるそうです。 この病院の特徴として、外国人の比率が高いです。タイ人58%、日本人20%、米国2.4%、英国1.7%と続きます。アラブ系、中国系が少ないのは、患者、医者ともに、人種の好き嫌いがまだ根強く残っており、病院としてターゲットを絞っているようです。また、ミャンマーなどのアジアの新興国の富裕層も増えてきているそうです。 ベッドは270床で、全室個室です。医者が688名もいるそうです。手術室8室、ICU16室、分娩室5室、内視鏡室5室と施設も充実しています。 会議室でタイの医療等についてもしっかりレクチャーを受けたのちに、館内を案内してもらいました。↑ラウンジは飲食店でにぎわっている↑日本人専用の窓口が設置されている病院の入口を入るとまずギターの生演奏で迎えてくれます。
中庭も明るく、飲食店も並びとても活気があります。まるでホテルとショッピングモールが合わさった感じです。そして日本人のための専用窓口もあります。もちろん通訳も24時間体制で常駐しています。
まず病棟を案内してもらいました。湾曲した長い廊下の各所にナースステーションがあります。病室はビジネスホテル以上に広く、トイレやシャワー、ミニキッチン、電子レンジもついています。そして病院施設を感じさせないように、酸素や吸引などのアウトレットも使わないときは収納されます。食事も多くのメニューから選べて付き添いの家族のためにルームサービスもあります。1階の大戸屋からもデリバリーできます。
小児科も見せていただきました。曲線を使ってとても柔らかいデザインで迎えてくれます。そして、おもちゃ屋さんのようにロビーでたくさんの子供たちが遊んでいます。
別棟にあるウェルネス棟では、健康診断センター等があり、内装も明るくすっきりとしたデザインとなっていました。
↑病室内医療アウトレットは収納されている
↑小児科は曲線でデザインされている ↑婦人科
↑VIP専用窓口
2.バムルンラード インターナショナル病院
バンコク スクムビッド中心部のナナ駅に近いところにある病院です。
20階建の27の専門科のあるクリニックビルと580床のホスピタルビルからなり、東南アジアで最大規模の病院となります。こちらもタイ人が6割、それ以外が4割で特に中東の患者が多く占めます。医療ツーリズムとして各国から来た患者は、医療コーディネーションチームが治療のプランを立てて1~2週間滞在して帰国するパターンが多いそうです。ほとんどが個室でスイートルーム1泊約7万円、ロイヤルスウィートは約13万円という価格設定です。旅行に来て家族で一流ホテルに宿泊することを考えれば、決して高くないとのことでした。この時期はほぼ満室ですが、ラマダンの月などは、ムスリムの方々はほとんど渡航しないので、利用も減るそうです。
内部は比較的落ち着いた雰囲気で一流ホテルにも引けを取らないぐらいゆったりとしたつくりです。病室はとても広く、病院施設らしさは全く感じないように工夫されていました。
↑ホスピタルビル ロビー
↑クリニックビル ロビー
↑クリニックビル ラウンジ
↑病棟ビジネスセンター 窓口
↑病室
↑屋上庭園
2件の病院視察を通じて、日本の病院と大きな差を感じました。自由診療からなる富裕層をターゲットにし外貨を稼ぐ方針、そしてその需要から一流の医者が集まる場となっている現状。一方で一般庶民はなかなか病院に行かないという現状。万人に平等な医療を、という日本の常識からはかけ離れていました。これから日本では医療費の国民負担が増え続ける中、破綻しないようにどのような舵取りをしていくのか、再考せざるを得ないのでしょうか。しかし、本来ホスピタル、ホテルは同じ語源であったように、癒しの空間が治療には求められると思います。まずは、設計者としてホスピアリティ「おもてなしの心」がある病院設計を追及していきたいと思います。
(文 村田)